不意に訪れた細やかな楽しみ  営業課 楠本

秋空にくっきり映えていた伊吹の峰も雲に隠れることが多くなり、どこかの街で木枯しが吹いたとお天気情報で話題になっていました。

とある昼下がり、社長から呼び止められた。また僕が何かやらかしたのかそれともスタッフかと思い神妙な顔で後をついていく。

「このお酒1本どうぞ、白木さんのところを会で訪問したので買ってきました。くすもっさんに合う酒を女将に選んでもらいました。」

古酒で日本はもちろん、海外でも名の通る酒蔵、だるま正宗の「淡墨桜 純米酒 ひやおろし」だ。

一瞬にして緊張が解れて満面の笑みがこぼれた。

「ありがとうございます、めちゃめちゃ嬉しいです。ほんとに!ありがとうございます。これ呑んだらブログ書きますね。」

嬉しかった。

僕の前職は酒蔵勤務だった。自社で醸した日本酒を東京や関東、大阪や関西方面に売込みに行っていた。
1週間有名百貨店で試飲販売をしたり有名地酒専門店に行くこともあった。
特に地酒専門店では、他社の酒と自社の酒を頑固な店主に飲み比べさせられた。

「どうや!この酒どう思う?」
ってな感じで。

店を出るときは昼間にもかかわら赤ら顔の千鳥足だった。
おかげで飲み比べには自信があった自社の酒のテイスティングでは全ての銘柄を当てることができた。

この季節ならやっぱ燗酒がいい。
封を切って栓をポン!と開ける。
トットットットトクっと器に注ぎ香を頼む。期待を込めて口に含み舌で味を確かめる。
この瞬間がいい。
燗をして呑んでみる。まろやかな味わいの中に米の味がする。
この米が感じられると幸福を感じてすぐ酔ってしまう。

得意先だった東京恵比寿の創作居酒屋の店長さんに、
「くすもっさん、お酒は楽しく呑みませんか!」
と言われたことがある。

蘊蓄より呑んで自分が美味しいと思えばそれでいいのだ。

これからが美味しい日本酒の季節、寒さに凍えながらも幸せな時を刻みたい。